スキップしてメイン コンテンツに移動

ケーブル物語:デジタルケーブルで信号は劣化するでしょうか?(その4)

 

デジタルケーブルで発生する伝送ジッターについて

前回のケーブル物語:デジタルケーブルで信号は劣化するでしょうか?(その3)で

デジタルデータそのものは、ビットパーフェクトでデジタル信号そのものは劣化しないと考えてよいことが分りましたが、ケーブルで発生するジッター(時間軸の揺らぎ)によりDAC側から見た同期タイミングの時間軸の揺らぎによりデジタル信号をアナログ信号に変換する際の変換精度が影響を受けて正しく変換されないことが分りました。

これを「ケーブル誘導」ジッタ-と呼び、ケーブルを変更すると波形がわずかに上下に移動すると(ビットが変化すると定期的に変化します)、水平基準線と交差する正確な瞬間も変化し、受信機から見たときにタイミングが変化することがわかります、ケーブルを変更すると、上記の波形が変更され、それに伴って、外部DACに送信されるジッターも変更されます。つまり、D/A変換のデジタル部分で信号の劣化は無くともアナログ部分のジッターによりDAC側のシステムクロックの同期に影響が出て結果としてD/A変換が正しく行われないことが信号劣化の原因だったということです。

極端な例えですが、音楽演奏に於いてすべての器楽奏者が勝手に*シンコペーションして演奏しているような揺らぎが絶えず不規則に生じていることになりますリズムに不規則性が生じて下記シンコペーションの*(3)弱拍部を延長したような変化(基本リズムの揺らぎによって音楽が絶えず変調されることを意味します)2023-01-24追記


*シンコペーション:音楽用語。切分音(せつぶんおん)と訳される。アクセントや拍節の正規のパターンを変えることによって、リズムに不規則性(強拍部と弱拍部の位置の交替)を生じさせる効果のことで、それには主として次に示すような三つの方法がある。(1)弱拍部にアクセント記号をつける方法。(2)強拍部を休止する方法。*(3)弱拍部を延長する方法

シンコペーションは古く中世の音楽にもみられるが、その場合は対位法による音楽のなかで各声部を際だたせるために、一声部ごとに用いられた。それに対し18世紀以降の音楽では、シンコペーションを全声部にわたって同時的に用い、今日的な意味での効果が意図されるようになった。なおシンコペーションは、ブルースやラグタイムやジャズなどの基礎ともなっている。[日本大百科全書(ニッポニカ)「シンコペーション」の解説より]

(その2)の復習になりますが・・・

①オーディオ特性に直接影響を与えるのはデジタルオーディオのマスタークロックである。このクロックは、D-A変換回路やD-AコンバータIC動作に用いられ、PCM信号の基準サンプリングレート(fs)に同期している必要がある。D-AコンバータICの変換精度(オーディオ特性)は、このオーディオマスタークロックのジッターに影響される。

②SPDIFの伝送クロック上のジッターは「伝送ジッター」であり、オーディオ機器内部のクロックとは直接には関係無い
D-A変換性能に直接影響するジッターは、ピリオド(周期)ジッターである。
デジタルオーディオにおいて「クロックジッター」を表現する場合は、「オーディオマスタークロックの立ち上がりピリオド(周期)ジッター」である。立ち上がりである理由は、一般的なD-AコンバータICの変換精度に影響するクロックは、立ち上がりタイミングのみで決定されていることによる。☚仕様
CDプレーヤーやケーブルなどアクセサリで音が変わる理由は、CDの読み取りなどデジタルビットの影響は一切なく、デジタルをアナログに変換する際のジッターの差異と、最終的なアナログ出力に影響を与えるアナログ回路側の影響である

■デジタルオーディオは、すべてがデジタルではない!

最初に理解すべきことは、デジタルオーディオは完全に「デジタル」ではないということです
タイミングが重要である理由は、サンプリング理論では、出力サンプルが最初にアナログからデジタルに変換した正確な時間と一致することが義務付けられているためです
この原則に違反すると、歪みが発生します。

DACを駆動するタイミングを完全に正確にすることはできません。ある程度の変動は常に存在します。これを「ジッター」と呼びます。
これは、DACへのタイミングソースが理想値からどれだけ変化するかの測定値です。ジッタ-の影響は、その振幅(振幅)、周波数(ジッタ-とソースオーディオの)、およびスペクトル/波形(変動の仕方)によって決まります。


ジッターの音楽への影響は、音楽のすべてのトーンを変調することです。
DACのタイミング変動が5億分の1秒を超える場合オーディオサンプルの1ビットを圧倒するのに十分な歪みが発生します。(ここまで、その2で公開済み)

再びS / PDIFデジタルオーディオケーブルを例に取ります。
オーディオビットは、一連の「1と0」としてその上を移動します。
しかし、
パルスがゼロからゼロ時間で最終値に達する完全な方形波を再現できるケーブルはありません。出来る限り周波数特性に優れた広帯域でハイスピードな(方形波の立ち上がりが良く波形が鈍らない)ケーブルが求められます。

S/PDIFデジタルオーディオケーブルの誘導ジッターを減らす。
ジッター(時間軸の揺らぎ)を極力排除するにはどうすればいいのか?

一般的な75Ωの同軸ケーブルは、絶縁体(誘電体)やシース(塩化ビニール)に問題があり
そのままでは、理想の同軸ケーブルからは程遠いことが分りました。

先ず、絶縁体は*誘電体でもあるため、空気層を多く含んだ発砲ポリエチレンや架橋ポリエチレンが良いことが分りました。探すとありました。しかし、残念な事に編組シールドの上に被せられたシースの材質は高周波の領域での利用しか考慮していないため、対候性を考慮して塩化ビニールを使用しているものがほとんどです。
塩化ビニールが良くないのは、*周波数依存性を持つ材質のためです。
また、同じ75Ωの特性インピーダンスでも3C2Vと5C2Vでは、同軸コアの絶縁体の太さにより信号ロスの点で5C2Vが有利です。
編組シールドは信号を流すときにリターン側になるため、無メッキの銅線が良いです。

ケーブルに電流が流れると導体である電線はもちろん絶縁体にも僅かですが電流が流れます。絶縁体は電流が流れないのでなく流れにくいだけであることを認識すべきです。

つまり、絶縁体(誘電体)に電圧が印加され微小であっても電流が流れると誘電体に分極(分子内で電子の偏り)が生じ(誘電分極)静電気が充放電を繰り返します。
静電気が充放電を繰り返すことは、信号が変調されることを意味します。これがケーブルによる誘導ジッターの一要因であると考えます。この絶縁体(誘電体)の材質が塩化ビニールの場合、周波数により静電容量が変化するため信号伝送路として考えると好ましくありません。対策としては、塩化ビニールのシースを剥ぎ取り誘電率の低い架橋ポリオレフィンの熱収縮チューブに置き換えることで実現したのが、フィデリティゲートのDIG3000デジタルケーブルです。また、ケーブルに外部から物理的な振動や力が加えられた場合もケーブルの静電容量が変化するため、ケーブルは硬くシースで締め上げなければなりません。そのシースも誘電体であるためPETスリーブを3重に重ね合わせることで空気絶縁に近い状態で同軸を強固に締め上げています。
ケーブル物語:デジタルケーブルで信号は劣化するでしょうか?(その1)の写真が実装例です。
こうして、1本1本手作りされたデジタルケーブルは、オーディオマニアに「ケーブル1本でこんなにもかわるものか!?」と言わしめるほどの高忠実度なデジタルケーブルが出来上がります。

*誘電体(絶縁体):誘電体は直流に対しては絶縁体ですが、交流は通します。それも周波数が高いほど良く通るようになります。

絶縁体の*周波数依存性:誘電率はいくつかの物質によって構成されており、各構成物質は,応答可能な周波数が異なるため、結果的に誘電率には周波数依存性誘電分散)が観察されます。 このことは、低周波で大きな誘電率が得られた物質でも、高周波では誘電率 が低下してしまう可能があることを示しています。

デジタルケーブルで信号は劣化するでしょうか?(終わり)









コメント

このブログの人気の投稿

ケーブル物語

6 スピーカー・ケーブル端子 選択のポイント 端子を選ぶ際にYラグ端子とバナナ端子のどちらを選ぶべきか? それぞれの長所と短所から考えます。 ■端子形状 ・Yラグ端子:接触面積が広く強固な締め付けに耐えるので接触抵抗が安定する。 ・バナナ端子:取り付けは一般的には差し込むだけで利便性が高い。抜き差しを頻繁にしていると接触が甘くなる場合がある。(ロック機構付きのバナナ端子は別) ・ピン端子:ビンテージ・スピーカーの場合は、ピン端子しか選択できないものもある。接触面積は点接触に近い。(点接触ではあるが、バインディング・ポスト側のネジで締め付けるため導通には問題ない) 理屈では、Yラグが良さそうですが、市販のYラグ端子には良いものが少ないです。Yラグであっても材質や表面処理(磨きや下地処理方法、メッキ種類やメッキ厚)が適切でない場合が多く、優秀なケーブルになればなるほど、端子による音質の劣化が顕著になります。 ■端子の材質 ・導電性:純銀>純銅>ブロンズ(銅と錫の合金)>真鍮(銅と亜鉛の合金) 導電性だけを見れば純銀ですが、音色に銀のキャラクターが出てしまうことがあります。 ■表面処理方法(めっき) 金属は空気中に放置すると酸化により錆びてきます。そのため、導電性を維持しつつ金属表面を保護する目的でメッキ(鍍金)加工が施されます。オーディオ用の端子で使われるメッキは、以下のとおりです。 ①銀めっき:銀は、酸化でなく硫化( 硫化とは硫黄成分に反応して銀が黒く変色することで、空気中の硫黄成分に反応したもの)により黒く変色しますが導通性には影響しないようです。 ②銅めっき:銅の金属に銅のメッキをする意味はあまり無いように思います。 銅は、空気中に放置すると酸化被膜(錆びの一種)が生じます。しかし、酸化被膜によりそれ以上酸化が進み錆びることを防ぎます。また酸化被膜は薄いのでホール効果により電流は流れてくれます。オーディオ的には、この酸化被膜も無いのが望ましいです。銅表面を磨いて導線を圧着したあと充填剤と熱収縮チューブで空気を遮断することで酸化被膜を防止できます。 以下は余談です。 中国製の銅端子を輸入し圧着しようとしたところ、あまりにも硬くて、これは鉄の上に銅メッキしたものであると疑いエナメル剥離用の溶剤に1時間ほど浸けておいたところ白

ケーブル物語:デジタルケーブルで信号は劣化するでしょうか?

 理想的なデジタルケーブルを製作するため周波数依存性のある塩ビのシースを剥ぎ取ります。 塩ビのシースを剥ぎ取り、低誘電率の架橋ポリエチレン被覆に変更し180℃で熱収縮した後、自然冷却します。写真左が架橋ポリエチレン被覆に変更された同軸ケーブル、写真右が剥ぎ取った塩ビ被覆の残骸です。 振動対策としてPETスリーブを三重に被せて締め上げ最高峰の同軸ケーブルが完成します。同軸内部の絶縁体も発泡ポリエチレンで空気層を多く含んだ低誘電率の素材です。 この後、仕様によりBNCまたはRCA(渦電流を回避するため点接触型)プラグを取り付けます。 DIG3000-1.0m RCA ■ S/PDIFについてネット上にある情報をケーブル制作者の視点から要約しました。 S/PDIF(Sony Philips Digital InterFace、ソニー・フィリップス・デジタル・インターフェース=エスピーディーアイエフ)とは、映像・音響機器などで音声信号をデジタル転送するための規格です。 S/PDIFを採用するケーブルには同軸ケーブルのほか、光ケーブルも S/PDIFを採用します。USBケーブルの転送方法は異なりますので、ここでは同軸75ΩのS/PDIFについて考察します。 ■デジタルケーブルで信号は劣化するでしょうか? デジタル伝送に於いては、致命的なエラーは生じていないことが多くの実験結果からわかっています。☚デジタルデータは、劣化しないと言えなくも無い? もし、致命的なエラーが発生した場合はデータの転送そのものが失敗し、現象として聴感上はプチプチしたノイズや音が途切れたり連続的なホワイトノイズが発生し、最悪の場合はデバイス(DACなど)を認識せず接続が切れてしまいます。しかし、音が同軸ケーブル(S/PDIFの転送品質)の違いで劣化するのも事実です。なぜでしょうか? S/PDIFは、*ジッターに関しては、**アナログ信号です。DAC回路の時間軸は入ってくるS/PDIF信号に追従していますから、音質はS/PDIF信号の時間軸の通信品質で決まります。更にS/PDIF信号のノイズ成分もジッターとしてDAC回路の音楽信号を揺るがす事になり、結果としてS/PDIF信号の時間軸の通信品質がデジタルオーディオの音質を決することになります。 *ジッターとはデジタル信号の時間軸の揺らぎのこと **アナログ信

ケーブル物語11 電線に電流が流れるとノイズが発生する

ケーブルについては、相当な高額を機材に投入しているオーディオマニアの方でも1m150円前後のスピーカーコード(ケーブルでなく電源コードと同じ構造の平行2線式)を使われている方がいます。その方はタンノイのWestminster royalというものすごいスピーカーを使われていました。左右セットで600万円以上します。その他の機材を含めれば軽く1000万円を超えていました。一般的なオーディオケーブルに対する認識はその程度のものです。 その Westminster royal から再生されていた音は、一言で言えば、喧しい音でした。広いリビングルームなので1m150円前後の平行2線式コードが10m近く引き回されていました。これではノイズを拾いまくり、またコードの被覆がビニールですから喧しくなって当然です。 オーディオは趣味嗜好が優先するので本人が満足していれば、それを否定する必要は全くありません。余計なお世話です。しかし、音楽という時間芸術をより深く楽しみたい、演奏者の魂に少しでも触れたい、あるいは歴史的な録音を再現したい、と考えるのであれば、真剣にケーブルについて考察する必要があります。 ■電線に電流が流れるとノイズが発生する なぜ、電源コードのようなスピーカーケーブルでは駄目なのでしょうか? 電灯を灯すために使うのであれば、電源コードでも大きな問題はありません。 それでもオーディオ機器に近接して電灯を使う場合は、平行2線式のコードでは問題があります。 その理由は、電灯を灯すときに流れる電流は交流の100V/50Hzまたは60Hzで、電源コードの平行2線式ではノイズを周囲に出しまくるからです。スピーカーケーブルに流れるオーディオ信号は歪波交流という交流信号で電源コードに流れる周波数は50Hzや60Hzのような正弦波と異なり、20Hz ~20,000Hzまでの複雑な歪波交流信号です。さらにスピーカーケーブルの末端に接続されるスピーカーは発電機でもあるため起電力(オーディオ業界では逆起電力と呼んでいますが逆起電力ではありません)が生じスピーカーケーブルからアンプに流れようとします。電線に電流が流れると必ずノイズを出します。このノイズを減らす方法としてツイスト( ツイストペアケーブルは、 アレクサンダー・グラハム・ベル によって1881年